第5章 慶応三年二月十四日
そこへ背後から鋭い声が飛んできた。
「何をしているんですかあなた方は。雪村君が困っているでしょうに」
「山崎さん」
「うわっ!山崎君⁉︎」
「なんだ山崎君か」
「どうした、山崎」
何の前触れも無く現れた山崎に全員の目が向く。ふと気が付き千鶴が尋ねる。
「山崎さん七条へはまだ行かないんですか?」
「ああ、午後から行こうと思っている」
「いいよなー、山崎君は。七条から貰えるんだからなぁ」
藤堂が拗ねたように言うと、山崎は微かに眉根を寄せた。
「何の話ですか?藤堂組長」
「またまたとぼけちゃってこの色男!」
「へぇ、山崎君は七条から貰えるんだ。なら千鶴ちゃんからのはいらないね」
「ほう、七条が用意していたのは山崎宛てのものだったのか」
「ですから何の話ですか」
「もしかして山崎さん…知らないんですか?」
「何のことだ雪村君」
少し困惑の色を浮かべて、山崎は千鶴に尋ねる。本当にとぼけている訳ではなさそうだと、千鶴達はようやく理解した。