第5章 慶応三年二月十四日
慶応三年二月十四日。
新選組の屯所である西本願寺ではちょっとした騒ぎが起きていた。
「千鶴ー!よかったいたいた。ちょっといいか?」
「ダメだよ平助。千鶴ちゃんは今から僕と巡察に行くんだから」
「総司、平助、雪村が困っている。離してやれ」
幹部達が集まって、何故か千鶴を囲んでいる。当の千鶴はというと、少し困惑こそしているもののやはりかという表情でため息をついていた。
「平助君、お菓子ならちゃんと用意してあるから心配しないで。沖田さん、一番組は今日夜の巡察当番でしょう?斎藤さんはお心遣いありがとうございます」
境内を掃除する手を止めて、千鶴は一人一人に対応する。
「なんだか一君に美味しい所持ってかれちゃったなぁ」
「総司の言うとおりだぜ。一君ずりぃよ」
「それはお前達が雪村を困らせたからだろう」
「とか言って一君実は千鶴からお菓子貰うの楽しみにしてたんじゃねーの?」
「へぇー、そうなんだ。千鶴ちゃん、一君にはあげなくていいからねお菓子」
「な⁉︎お前達何を言って…」
子供のようにワイワイと騒ぐ幹部達を見やりながら、千鶴は笑っていた。