第2章 慶応三年二月四日
ワイワイと話す二人に原田が割って入る。
「いっそのこと懸想文でも渡しゃいいじゃねぇか」
「「け、懸想文⁉︎」」
いきなりのことに耳まで真っ赤になる実桜と、つられて赤面した千鶴。二人が声を失っていると、原田は面白いものでも見つけたかのように笑う。
「早とちりすんな。そういう名前の菓子があるんだよ」
「それを先に言って下さい。心臓に悪いです」
赤面したまま、千鶴は原田を睨む。実桜は声を失ったままだ。
「悪りい悪りい。だが特別ってぇ意味なら十分だろ?」
「確かにそうですけど…そんなあからさまなのはちょっと…」
恥ずかしさに俯いたまま、実桜はもごもごと答える。
「これぐらい分かりやすくねぇと伝えてぇことも伝わらねぇぞ」
言葉とは裏腹に優しく微笑んで言う原田。と、千鶴が疑問を投げかける。
「でも原田さん、それってどんなお菓子なんですか?」
「ん?確かこなし餡の文を黄身餡で結んだってぇ上菓子だ」
「上菓子じゃ当日買いに行かなきゃいけないじゃないですか‼︎」
実桜は慌てた。買い物に行っている間に訪ねてこられたら元も子もない。
「上菓子屋に届けさせればいいだろう」
「届けて…もらえるんですか?」
「茶席で使うって言やあ届けてくれるだろうよ。何なら俺が頼んでおいてやろうか?」
新選組の幹部直々の依頼とあらば融通を利かせてもらえるだろう。わざわざ出向かなくていいのは正直助かる。実桜は遠慮がちに原田に頭を下げた。
「じゃあお言葉に甘えてお願いします」
「お安い御用だ。任せときな」