第2章 慶応三年二月四日
と、千鶴があることに気づいた。
「そういえば実桜ちゃん、贈り物の方はどうするの?」
「それなんだけどね、襟巻を作りたいからなるべく目の細かい厚地の太物が欲しいの。色は…黒で」
「え、襟巻⁈」
驚きで目をみはる千鶴と、千鶴が驚いていることに驚く実桜。
「襟巻なんざ隠居か病人が使うものじゃねぇか」
原田も驚きを隠せずにいる。
「そうなんですか⁈私の時代じゃ一般的な防寒具だし首に巻くものだから丁度いいと思ったのに…」
項垂れる実桜に千鶴はある質問をする。
「首に巻くものに何か特別な意味があるの?」
「首だけに首ったけってか?」
冗談のつもりで言った言葉に三度実桜の顔が赤くなると、さすがの原田も苦笑する。赤面したまま実桜はぽつりと語り出した。
「本当はネクタイっていう、男の人が正装する時に首に巻いて使う飾りを贈るんです。だけどこの時代の日本にはないし洋装もしないから贈れなくて…。だからこの時代にもある首に巻くものって考えて襟巻にしたんですけど、これも駄目なんですね」
「そんな顔すんな。贈り物なんざ要は気持ちだろ?お前が贈りたいものを贈りゃいいじゃねぇか」
泣き出しそうな顔をした実桜の頭を原田はわしわしと撫でた。
「そうだよ実桜ちゃん、絶対に想いは伝わるから」
実桜の手を取り励ますように千鶴が言う。
「厚地の黒い太物だね。必ず用意するから待ってて。いつまでに用意すればいいの?」
「ありがとう千鶴ちゃん。出来れば十日くらいまでには欲しいんだけど何とかなりそう?」
「十日だね。大丈夫、何とかするから心配しないで」
「本当にありがとう千鶴ちゃん。原田さんもよろしくお願いします」
「おう、十四日の朝に届けさせればいいんだな?」
「はい、ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします」
実桜は二人に向かって深々と頭を下げた。