黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「でも今は、見逃してあげるよ。おやすみ」
流石のグレイも怪我の影響か、少しずつ意識が朦朧とするのを感じて目を閉じた。痛みが走らない程度に、アリスを腕に抱きながら。彼女の体温を感じながら、グレイは静かに眠りについた。
仲良く眠る二人の姿は、今までの出来事を知らない人からすればとても微笑ましい光景に映るのだろう。だが事情を知る者達からすれば、寿命が縮む思いをするに違いない。
丁度氷を買いに出かけていたクライヴが帰って来たのか、玄関が騒がしくなる。
「姫様っ! 氷を買ってきましたが、如何いたしますか!? お持ちした方が宜しいですか?」
玄関先から、空き部屋の方へと声をかける。しかし……返事はない。
「この調子だと、寝ている可能性はありますね。まったく、仕方ないのない人です」
キッチンへとクライヴは消えていく。
少し前まではファントム家にて、居候生活を続けていた二人だったがとある出来事がきっかけでついに別居を決意した。と言っても、そこまで大それた理由ではないのだが。
◆
――数か月前
ファントムハイヴ家では、シエルの仕事部屋にアリスとクライヴが招かれていた。
「本日、二人を呼んだのは他でもない。クリスマスの予定についてだ」
「ねぇ、シエル。確認したいんだけど……今は十月でハロウィンでさえまだなのだけど?」
「アリス……君は甘いぞ。今からクリスマスの準備をしておかなくては、いざという時にどうする!? しかも今年はエリザベスがどうしても此方でパーティーをしたいとしつこく言ってきていてな……」
「なるほど、主にリジーの為に早めにしっかりと計画しておきたいわけだ」
「……こほん。で、何かいい案はないだろうか?」
「クリスマスパーティーの? 仕事の話ではなく?」
「それなら、クライヴがいるから問題ないだろう」
シエルはクライヴを一瞥した。あれから、クライヴはシエルの秘書としてファントム社の事業を手伝っている。ヴァインツ家がなくなった今、二人に稼ぐ手段はなくそんな中クライヴを秘書にしてくれたシエルのは二人共感謝している。