黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「ん……っ」
ゆっくりと、グレイの瞼が開かれる。手に違和感を覚え、視線を辿る。そこには自分の手を握ったまま、眠っている見知った少女の姿。
「……アリス?」
何故彼女がこんなところに? そう疑問に思いながら、身体を動かすと肩に激痛が走りすぐにベッドへと沈む。
「ああ……ボク、路地裏で……」
気を失う前の出来事をゆっくりと思い返す。だが彼にとって、然程重要な出来事でもなかったのかすぐに飽きた様に息を吐いて部屋を見回す。雰囲気からして病院ではないことを察すると、アリスへと視線を向けた。
「なんでこいつ、いるの」
ぎゅっと手を握り締めてみれば、アリスの体温をより一層感じる。どうしてこんな状況になっているのか、理解できないグレイはただじっとアリスを見つめていた。
「むかつく……」
グレイはぐっと無理矢理身体を起こす。痛みが全身と肩に走りながら、それでも身を起こしアリスを起こさない様に彼女をベッドの中へと引き込んだ。ぐっと近くなった距離に、グレイはアリスの頬に手を滑らせる。
「綺麗な肌……ボクが何度君の肌に傷をつけたのか、君はもう忘れたのかな? そんな無防備で、ボクの前に現れるなんてどうかしてるよ」
いつもならすぐにでも彼女を傷付けるであろうグレイだが、怪我のせいで上手く身体が動かないのか大人しく彼女を見つめ、頬を撫でていた。一向に起きる気配のないアリスに、グレイは独り言のように語り始める。
「ボクは君を傷付けるばかりなのに、どうして君はそうなのかな……ボクに傷の手当なんてしちゃってさ。お人好しなの? 死ぬの? もう死ねばいいのに。ボクが、殺してあげるのに」
けれど、ふっと笑みを零してグレイは誰にも見つからない様にと……アリスの唇に軽くキスを落とす。