黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「姫様、留めなら私が」
「私がグレイの留めを刺す為だけに持ち帰ったとでも言うのなら、今すぐあんたを殺してあげるから。首を出しなさい首を」
「申し訳ありません。意図を汲み取るのは後にして、とりあえず空き部屋に運ぶ気なのですね? 重いでしょう、私が運びます」
「……いいの、私が運ぶ」
「なんですかその無駄な意地というか……」
「自分がやったことだから、自分できちんと始末をつけたいの」
「はぁ……」
クライヴは彼女の手から奪うように、グレイを抱えた。
「ちょっと!」
「姫様……此処まで貴女一人で担いでこられたのでしょう? 空き部屋までは階段が御座います。それをまさか姫様が成人男性一人担いで上がれるとは到底思えません。此処は遠慮なく、クライヴにお任せ下さい」
「……わかったわよ。早く運んで、怪我の手当てをしてあげて」
「……イエス・マイロード」
クライヴの後を追うように、アリスも空き部屋へと向かった。アリスの言いつけ通り、部屋は綺麗に整えられており、ベッドへとグレイを下ろす。
「ねぇ、クライヴ。グレイは死にそう? 助かるかしら? ちゃんとした医者に診せた方がいいのかしら……」
「いえ、怪我はたぶんこの肩の傷くらいでしょう。所々傷は見られますが……どれも浅いので問題ありません。では、肩の傷の手当でもするとしますか」
きっとクライヴのことだ、何故自らの主人の命を何度も狙ってきた男を介抱しなくてはいけないのかと、そう思っているに違いない。アリスはそう思いながらも、それを口にすることなく手当をしてくれるクライヴに心の中でそっと感謝する。
一通り手当が終わると、心なしかグレイの表情が少し穏やかになった気がした。