黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「姫様? どうしたのですか、そんなに急いで……」
「この荷物お願い! あと、空き部屋のベッドを綺麗に整えてくれる? あ、でも血がつくかもしれないしなぁ……とりあえず傷の手当てが必要になるから、救急セットを持って空き部屋の掃除を五分で済ませて! いいわね!?」
「ちょっ……姫様っ!?」
クライヴの制止の声を無視して、アリスは再び外へと飛び出した。その足が向かうのは先程の裏路地。息が乱れるのも気にしないで、先程と同じ場所へやってくればやはり未だ彼は倒れたままだ。すかさず彼に駆け寄り、脈を図る。
「……脈はある、ということは生きてるわね。このまま死んでくれればいいのに……」
嫌味を零しながらも内心ではほっとしている自分に気付く。グレイと言えば、アリスの治癒能力を欲し何度も狙ってきた危険な相手だ。目が醒めた彼は、また彼女を手にかけようとするかもしれない。あるいは再び浚われる可能性だってある。
にも関わらず、アリスの瞳に迷いの色は見られない。
アリスは全身でグレイを担ぎ上げると、重さで歯を食いしばりながらもずるずるとその場から歩き始める。出来るだけ人がいない場所を探しながらも、けれど確実に自宅へと向かう。途中、どうしても人通りのある場所を通らなくてはいけなかったが、人の目など気にしている暇はなかった。
額に汗を滲ませながら、懸命に自宅まで運び切る。玄関前でアリスの帰りを待っていたクライヴが、彼女の姿を捉えて驚愕する。
「姫様!? な、何を拾って来られたのですか!? う、うちは飼えませんよ!? に、人間という名のペットなど」
「誰が人間をペットにするか。顔を良く見てみなさいよ」
「え……?」
クライヴがそっとアリスが担いできた人物の顔を確認する。途端、険しい表情に変わり袖から瞬時にナイフを取り出した。