黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「……絶対に関わりたくない」
今目の前で起きていることは、夢、そう夢なのだ。自らそう言い聞かせながら、買い物袋を片手にアリスは一人眉間に皺を寄せていた。
数時間前、街で一人買い物をしていたアリスは自宅への近道として、あまりおすすめではないが路地裏の道を選択し歩いていた。薄暗い路地裏、足場は悪くないもののいつ危険な目に遭うかもわからない。雲行きが怪しくなり始めた頃、道のど真ん中で倒れている人を発見してしまう。
よし、これは見なかったふりだと無視を決め込んだアリスだったが、ちらりと見えた相手の顔に見覚えがあり過ぎて微妙は顔になる。
「なんでこんなところにグレイが寝てるわけ? 意味わかんないんですけど……」
頭を抱えるしかなかった。あの悪趣味でやたらと強い女王の執事がどうして? しかも、彼は大きく肩に大怪我を負っており未だ血が滲んでいる。地にも彼の血と思わしき痕が残っていた。用心深そうな彼にここまでの大怪我を負わせるような出来事など、ますます関わりたくはなかった。
「……このまま放置して、翌朝新聞で死体発見路地裏にて! なんて掲載されたら胸糞悪いわよね……」
さて、どうしたものか。
手に持っている荷物を見つめながら、大きく溜息を吐いた。アリスは物凄い速さで一気に路地裏を後にした。大通りに出て、人とぶつかりながらも駆けていく。息を切らし辿り着いた先は、アリスの自宅。慌ただしく扉を開ければそれに驚いた様子を見せるクライヴが、彼女を迎える。