黒執事 Christmas at midnight
第3章 後篇 聖なる時の選択を
「あ、そうだわ。アリス!」
「どうかした?」
「メリークリスマス!」
「……! ええ、メリークリスマス」
今度こそエリザベスは部屋を出て行った。
「クリスマス……ね」
幼い頃に両親を亡くしたアリスには、盛大にクリスマスを祝うという習慣は一欠けらもなかった。
ファントムハイヴ邸が賑やかになり始める。招待された客人が通された会場でそれぞれに談笑している。セバスチャンは一人一人に声をかけながら、笑顔で対応していく。勿論、会場をいくら探してもアリスの姿はあるはずもなかった。
――やはり、今もお一人で……。
再びセバスチャンは懐中時計で時刻を確認する。閉じて開いて、そんなことを繰り返していると不意に誰かの足音が近付いて来る。
「おい、セバスチャン。何をぼーっとしている?」
「ああ……申し訳ありません坊ちゃん。何でもありませんよ、少し時間の確認を」
「時間の確認……? そういえば、アリスはどうした?」
「人混みは苦手だと仰られて、たぶんまだこたつのところにいるのだと思われます」
「そうか……」
「シエル様!」
クライヴがシエルの方へと駆け寄ってくる。やはりパーティーというだけあって、執事であるクライヴも手伝いに参加していた。
「クライヴ、お前は僕がいいというまで今からセバスチャンの残った仕事をこなせ」
「わかりました」
「坊ちゃん……?」
「ああ、それからセバスチャン。これは僕からのクリスマスプレゼントだ」
包装も何もされていない、むき出しの懐中時計をシエルはセバスチャンへと渡した。彼の意図をいまいち汲み切れないセバスチャンはそれを受け取ると、首を傾げで懐中時計を開いた。