黒執事 Christmas at midnight
第3章 後篇 聖なる時の選択を
「アリスはそれでいいの? もっとこうしたいとか、ああしたいとかはないの?」
「そうねぇ……」
アリスからしてみれば、そもそも付き合うというものがどういうものかわからないわけで。今まで恋とは無縁の環境の中で、自分の力の事やヴァインツ家の宿命とか。そういうものに常に繋がれていた彼女からしてみれば、こうして穏やかな日々を少しでもセバスチャンと過ごせることにこそ意味があるわけで。
世間一般の両想いの男女の関係、つまりは恋人というのがいまいちピンとこないのだ。それは必ずそうでなければいけないのか、想いさえ通じていれば必要ないのではないか。
実際セバスチャンも同じような考えだったため、アリスはそこまで重要視することなく今まで通りを貫いた。
「私はセバスチャンと、この人生を共に出来ればそれで十分なのよ」
「……アリスって大人ね。私には難しいことだと思うわ」
「人それぞれだと思うわよ、恋の形なんて。私とセバスチャンは偶然こうなっただけ。特別なことなんて何もないかもしれないけど、私は一瞬の特別よりずっと続いていく当たり前の方がもっとずっと好きよ」
「……そっか。お節介なことばかり言ってごめんね?」
「気にしなくていいのよ。だってそこが貴女のいいところなのだから」
「うん……。アリス! 私、シエルのところに言って来るわ。今日は特別だから、一緒にいたいの」
「そうしてくるといいわ」
嬉しそうに笑顔を浮かべて、エリザベスは扉のノブに手をかけた。