黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「……アリスの瞳が、宝石みたいに綺麗で美しかったから……だからボクは、お前を欲したんだ。なんて言ったら、お前は笑う?」
そっとアリスの額にキスを落として、グレイは彼女を抱き上げた。
傷だらけの身体で彼女の家へ戻れば、クライヴが血相掻いて駆け寄ってくる。
「グレイ様! ひ、姫様に何が……!」
「ちょっとボクの遊びに付き合わせちゃっただけ。怪我はしてないんじゃない? まぁ、この子の場合は治癒が働くだろうけど。またねって伝えておいて」
グレイはクライヴに彼女を預けると、そのまま後ろを向いた。
「あの……! せめて怪我が治るまでこちらにいらしたらどうですか? その方が、姫様も喜ぶと思いますよ」
クライヴの言葉に耳を傾けて振り返るが、すぐにグレイは嘲笑した。
「やだよ。目が醒めたら、すぐに殺したくなるから」
途端、細い腕が伸びてグレイの服の裾を掴む。その手が、アリスのものであることに気付きグレイは初めて目を丸くした。
「アリス……?」
「グレイ、いる……?」
「起きちゃった?」
「グレイ……」
「……なに」
アリスはゆっくりグレイへと顔を上げると、力なく笑う。それが何を意味しているのか、グレイにはわからなかったけど悪い気はしなかったみたいだ。
「一つ教えておいてあげる」
「君に教えられることなんて、ないよ」
「この命が貴方のものだというのなら、精々他の誰かに私が殺されない様に目を光らせておくことね」
「……はあ?」
「私を殺したいんでしょ?」
「……そうだよ」
歪な感情が芽を出し始める。
「アリスの命はボクのものだから、ボクの命はアリスにあげるよ」
今度こそグレイは「じゃあね」と踵を返した。同時にアリスも、手を離した。
罪と罰を併せ持って、生を貪る。
グレイは一人、親指で自らの唇を拭って呟いた。
「殺したいほど愛おしいなんて……どうかしてる」
執着は鎖のように、絡みついては解けない。そうして囚われた時、切っ先で撫でる白い肌に紅い花が咲けば毒のように身体を蝕んでいく。そうして息が出来ないような、苦しさの渦中で沈んでいく。
狂乱に更けながら、彼を蝕むのは毒か愛か。