黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「……アリスから手を離せ、虫けら」
「……なっ!?」
空に向かって振り上げられた一筋の剣が、アリスを掴んでいた男の腕を飛ばす。
「ああああああああああッ!!!」
声にならない悲鳴を上げながら、男は失った腕の痕を見つめ発狂し始める。支えを失って落ちるアリスを、グレイは優しく抱き留めた。
「……げほっ、げほっ……」
「アリス……」
グレイの手が、アリスの頬を撫でる。それがあまりにも優しくて、アリスは朦朧とする意識の中でグレイを見つめた。
「グレイ……?」
「ボクがアリスを傍に置きたいのは……そんなつまらない理由なんかじゃない」
理由を問う余裕もなく、アリスは彼の腕の中で意識を手離す。グレイは彼女を後方へ寝かせると、殺気を込めた瞳で男を睨んだ。
「よくも……よくもよくもよくもボクのアリスに手を上げたなこの下衆が……ッ」
「貴様あああああッ!!」
男はもう一方の手で斧を掴み上げ、渾身の力を込めて振り下ろす。
「汚い手でボクの玩具に触れるな……ッ!!」
グレイは相手の攻撃を避け、一撃で男の胸を貫いた。すっと剣を抜くと、男はその場に崩れ落ちた。傷が治る気配もない。……もう息もしていないだろう。
グレイは興味なさげに男から離れて、アリスの元へと駆け寄る。