黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「え……!?」
「効かぬ……効かぬぞ女!!」
男は拳を向けて、アリスの腹に重い一発を食らわせる。アリスは肺が潰れるような痛みに、口から血を吐き出した。
「……がっ!」
男の力が自体が桁違いだ。地に倒れ込むが、すぐに起き上りアリスは口元を拭う。痛みは残っても、腹に受けた傷は彼女が息をするのと同時に治癒されていく。その様を眺めていた男は「ほぉ……」と感心したような声をあげる。
「お前あれか、噂の天使だな?」
「噂……?」
「だいぶ前に噂になっていた。エンジェルドラッグの成功者……そうだろ?」
「知らないわねぇ、何も」
「俺はな……ずっとあの薬を探し求め、独自に研究を重ねている者だ」
「え……?」
「今の俺の技能では、数回傷を癒す程度しか作れないからな。成功例を傍に置けば、本物をいつか完成させることも出来るやもしれん!!」
「!!」
男がアリスの首を掴み上げた。ぐっと力を込められ、アリスの首を締め上げられ声を上げることも出来ない。
「……死体でも傍におけばいいだろう」
「……っ」
だんだん息が苦しくなる、意識が遠のく。力なく剣が落ちる。握っていることも出来ない。
グレイが彼に襲われたのは、偶然なんかではないとアリスは確信する。きっとこの男が新しいエンジェルドラッグを開発してくれるかもしれないと調査していたのではないだろうか?
"女王"の命で。
しかし予定外のことが起き、グレイは不運にも傷を負う。そしてなんとか逃げ切ったはいいものの、傷が深すぎてあの場所に倒れていた。そうもなれば、辻褄は合う。あの彼が、何の理由もなく誰かに傷を負わされるはずもないのだから。