黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「別に、そんなこと思わないわ。あの頃の自分があったから今の私があるんでしょ? どうしてあの頃に戻らなくてはいけないの。嫌よ絶対」
「そういうもん?」
「グレイは、戻りたい時があるの?」
「……ないよ」
いつになく大人しいグレイに、アリスは反応に困りながら笑う。
「価値ある今を生きるなら、それが正しいんじゃないの。まぁ、ボクにそんなことはどうだっていいことなんだけど」
「グレイらしいといえば、らしいわね」
「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんか?」
二人の空気を切り裂くように、玄関の扉を叩く音と男の人の声がする。
「あら、何事かしら」
「……アリス。すぐに出る準備をして」
「なんでよ」
「囲まれてる」
「……!」
「君、ボクのこと派手に担いで運んできたんじゃないの?」
「どうだったかしら……よく覚えてないわ」
「巻き込んじゃったみたいだね? まぁ、ここまできたならとことん付き合ってもらうよ」
グレイは服を着替え始める。アリスは慌てて部屋を出て行こうとするが、グレイはそれを許さないとするように腕を掴み上げて思いがけないことに、アリスはベッドへと押し倒された。
「逃げないで、逃げようとしたら殺す」
「に、逃げたりしないわよ! ちょっと前肌蹴てるわよこの変態!」
「なに? ボクの肌にでも触れたい?」
「違うわよ変態!」
「煩い……」
グレイは前を閉めると、強引にアリスを抱き上げて窓から飛び出す。
「ちょっと……!」
「しっかり捕まってなよ、お姫様」
「はあ!?」
遠くの方で「逃げたぞ!」という声がする。どうやら本当に囲まれていたようだ。グレイに抱き抱えられたまま、アリス達は家の屋根を飛ぶように移動していく。常識外れだ!! そう心の中で叫びながら、アリスはぎゅっと彼へとしがみつく。