黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「今日のアリスは……変だ。調子が狂う、寝る」
「おやすみ」
憎まれ口は叩くものの、やはりまだ身体が辛いのだろう。氷枕をいれてやれば先程よりも、呼吸が楽そうに見える。アリスはクライヴを連れて部屋を出た。
リビングで一息つくと、クライヴは見計らってアリスへと温かい飲み物が入ったカップを手渡した。
「ありがとう。それにしても……グレイがあんな傷を負うなんて、何があったのかしらね」
「姫様。あの方に深く関わるのはおやめ下さい。どうせろくなことがないのですから」
「違いないわね」
グレイが眠ってしまった今、彼の身に何が起きたのかは最早誰にもわからない。そんな中であれやこれや考えたところで意味はないだろう。アリス達はクリスマスの案を出し合いながら、一日を消費した。
二日後、熱の下がったグレイだったが肩の傷は思ったより酷く、未だにベッドにいた。
アリスは一枚の書類に目を通しながら、グレイがいるはずの部屋へと向かった。書類の内容は、シエルから送られてきたとある調査結果だった。
「グレイ、起きてる? 入ってもいいかしら」
「どうぞ」
扉を開けた先には、退屈そうに窓の外ばかり眺めているグレイの姿があった。アリスへと視線を向けると、溜息と共に口を開く。
「介抱してくれたことは感謝してあげる。でもね、ボクは君達ほど暇じゃないんだ。悪いけどそろそろ失礼させてもらうよ」
「その前に、私の質問にいくつか答えて頂戴」
「……答えられる範囲ならね」
「路地裏で倒れていたのは何故?」
「黙秘権」
「……貴方にそこまでの怪我を負わせたのは、一体何」
「あのさ……それを聞いてどうするつもり? まさかボクの敵討ちとか? 傑作だね」
「シエルに調べて貰ったわ。この近辺で最近起きている事件とか、色々。その中で一つ気になるものがあった」
一枚の書類を、そのままグレイへと見せる。それを見たグレイだったが、顔色一つ変える様子はない。