黒執事 Christmas at midnight
第2章 前篇 聖なる時の選択を
「……熱い」
「え? え??」
「……身体が熱くて……だるい」
「……! まさか、貴方熱が出たんじゃ……っ」
「熱? ああ……そう、なのかな? 頭がくらくらする」
「ちょっと待ってて。すぐに氷を持ってくるから」
ベッドからアリスが出ようとすると、阻止するようにグレイがアリスをぎゅっと抱き込んだ。
「グレイ!」
「……何処いくの、アリス……」
「何処って……だから、氷を取りに……」
「離れたら、殺すよ……?」
「そんな身体で、何馬鹿なことを……」
「大人しくしてよ、傷が痛い」
「……あのねぇ……」
グレイの遠くを見つめる瞳を見て、アリスは口を閉ざした。よくある話、人は弱っている時は無性に人肌が恋しくなり、誰かに傍にいてほしいと望むもの。アリス自身も過去に経験のあること。もしも、グレイが今そうなのだとしたら……。
「グレイ、貴方はこういう時いつもどうしているの? 例えば風邪で寝込んだ時とか……」
「ボクがそんなヘマ、するわけないでしょ」
「……なら今回は?」
「玩具にそんなこと話す義理はない」
「言いたくないなら……別にいいけど」
アリスはそっとグレイの額に手をあてる。確かに熱いような気がする……早く氷を持ってきてあげた方がいいのは彼女もわかっているのだが、意外にもグレイの力は強く離れることは出来ない。けれど徐々に息を乱し、苦しそうに呼吸をしているグレイに表情を曇らせた。
「グレイ、お願いだから少しの間離して……氷があれば貴方も少し楽になると思うから」
「……嫌だって言ってるでしょ……ボクの話聞いてた? 殺すよ」
「はいはい……わかったわよ」
アリスは身じろぎしてポケットからハンカチを取り出すと、グレイの額に滲んだ汗を拭う。