第5章 好敵手
「任せてっ!俺以外のセッターのトスじゃ満足できなくしてやんだから~~っ!!」
俄然やる気に満ちた及川の様子に、岩泉と俺は顔を見合わせ笑った。
「わかりゃあいいんだ。………つか、それよりいい加減、離せ、馬鹿。毎度毎度ぎゅうぎゅうと痛ぇんだよ。」
「え~~~~やだ。試合に疲れた心と体を悠で癒しんてんだから!及川さんにとっては、これも大事なことなのっ!」
________ゾク!?
一向に離れる気配のない及川の先、"青城の鬼"こと岩泉一がボール片手に怒りに満ちた笑顔でこちらを見ている。
巻き添えだけは全力で回避したい俺は、自らの武器である機敏性を生かし、及川の体を剥がす。
ドカッ
「んぎゃっ!?」
間一髪のところで免れた俺は心中、胸を撫で下ろしていた。
危ないところだった。
だって、岩泉の目………マジだったもん。
痛がる及川の首根っこを掴み、これから自校へと戻っていく烏野高校ご一行を見送るべく体育館の前へと整列する。
『『ありがとうござーっしたっ!!』』
ちらりと主将くんに視線を向けると、向こうも見ていたようで重なった視線。
俺はニコリと微笑むと、すぐに逸らした。
挨拶も済ませ、体育館に戻ろうとすると、隣にいたはずの及川の姿が消えていた。
不思議に思い見渡すと、内心呆れ調子の岩泉と目があった。
「……どうせ、あいつのことだ。校門辺りで烏野にチャチャ入れてんじゃねぇか?」
「………はぁ。向こうに面倒かける前に連れ戻してくるわ。」
「わりぃな。お前の言うことならあの馬鹿でも聞くだろ。」
後ろ手に手を降りながら体育館を後にした俺は、内心ほくそ笑んでいた。
____Risk aversion.