第12章 合同合宿
青城と音駒とのゲームが始まった頃、ペナルティであるフライングコート1周を終わらせたばかりの烏野メンバーが肩で息をしながら歩いていくのが見えた。
俺はと言うと定番の流れとなりつつあるベンチスタートの状態で、ぼんやりと試合を眺めていた視線は烏野の1人の背中を捉えたまま逸らせずにいる。
このゲームでは出番は無さそうと早々に判断した俺は、コーチに一言告げると足早に烏野の後を追っていった。
「………よぉ。」
ポン、と自分より遥かに低い位置にある肩を叩くとピクリと反応する鮮やかなオレンジ色の頭。
次の瞬間には勢いよく振り返ったその顔は俺の姿を捉え、驚きに目を見開いていた。
「んがっ!?なっ銀鏡さんっ!!」
ピョン、と跳ねて驚く日向のオーバーな反応に思わず吹き出しそうになるのを抑えつつ、今も目の前でなぜ俺が自分に声をかけてくるのか分からないといった様子の日向に言葉を続ける。
「……くくっ驚かせて悪かったな。……いや、さっきのゲームの時のお前が気になってね。」
「っ!?おっ……俺ですか?」
「………なぁ、翔陽。お前何しようとしてる?」
俺の言葉に再び見開かれた日向の大きな瞳が揺れた。その瞳の奥には以前も感じた日向の中に見え隠れする貪欲なまでの向上心と勝利に飢えた獣がいて。
「銀鏡さん………俺、もっと、もっと上手くなりたいんです。もっと……この手でスパイクを決めたいんです!」
自分の掌を見つめながら吐き出された言葉を受け止めながら、俺はあることを確信した。
コイツは、"俺を楽しませてくれる存在になる"、と___
ゾクゾクと粟立つ体。
この日向という底知れぬ存在は俺にとってまだ出会ったことの無い類いの選手で、牛島たちのような強者とは異なる何か例えようのないブラックボックスのようなものだった。
どう転ぶかすら見当のつかない日向に期待せずにはいられない。
………さぁ、お前は俺をどう楽しませてくれる?
「……ははっ"上手くなりたい"か……。確かにお前身体能力は高ぇけど、技術は知れてるもんな。………ま、後でさ俺んとこ来いよ。……イイコト教えてやる。」
俺の言葉にパァと音が聞こえそうなくらい表情を明るくする日向につられて笑顔になる。すると日向の隣で話を聞いていた影山が辛抱たまらんと言わんばかりに「自分にも教えてください!」と声をあげた。