第5章 好敵手
試合は俄然、烏野に勢いがついたまま進んでいき、ついには21対24と烏野のマッチポイントというところまで来てしまった。
この状況にコーチの横で静かに座りながら観戦していた俺のイライラが頂点に達していた。
「……………コーチ…………俺、出ちゃダメですかね……?」
例え練習試合であっても、かなりの負けず嫌いである俺にとってこの状況は耐えがたいもので。
「ダメだ。………まあ、お前の気持ちもわかるけどよ。」
膝の上に置かれた拳を痛いほど握り締めて、己の中で暴れまわる戦いに飢える獣を必死で抑えていた。
…………出てぇ
マジ出てぇんだけど…………
つか何で俺出れねぇわけ?
出れたらこんな状況、秒殺で打ち負かしてやんのに……
誰か俺にボールくれよ。
アップなんてしなくても、十分やれるからさ。
高まるイライラ。
「_________!?」
突然、遮られた視界。
「こーら。ちょっと落ち着いて?…… 悠。」
聞き慣れた声が耳に届き、後ろを振り返るとにっこりとムカつく笑顔を拵えた及川の姿。
「……………遅せぇぞ。アホ川。」
「お待たせ… 悠。______アララ~~ピンチじゃないですか」
及川の言葉にちらりと向けられる監督の視線。
「…………アップは?」
「バッチリです!」
ゼッケンを着けてコートに向かっていく及川の姿を眺めていると、少しだけ振り返るその顔。
「………よそ見しちゃ、ダメだよ?」
静かに熱い闘志を秘めた瞳とぶつかる。
「……ん。みっともねぇもん見せたら、承知しねぇぞ。」
「あははっそれは怖いねぇ♪…………じゃ、行ってきます。」
「さっさと行け。………バーカ。」
後ろ手に手を振りながらコートへ向かう及川。
ピーーーーーー!
交代を告げる笛の音とともに、コート内の国見と及川が入れ替わる。
及川はボールを片手にエンドライン外側へと立つ。
____The emergence of star performer.