第10章 最大の好敵手
ギュキュ__ドパッ
「くっカバーッ!」
牛島の鋭角なスパイクを俺がレシーブで上げるがさすがの強打に勢いを殺しきれず乱れてしまった。すかさずカバーに入った及川を視界に入れつつ直ぐ様俺も囮に飛ぶべく、助走に入る。
一、行くぞ__!
心の中で名前を呼んで、センターの位置でスパイクモーションに入った背中に想いを乗せて。
ギュ、キュキュッ
ギュキュッ
俺と岩泉のシューズが床を蹴る音が響き、二人揃って空を目指して飛び上がる。
スローモーションのように見える景色は、ゆっくりと及川の掌からボールが放たれ、俺をブロックしようも飛んでいる牛島と白鳥沢のセッターも、岩泉のブロックに飛ぶ12番の姿も指先までくっきりと見える。
ボールの行く末が俺ではないと気づいた時には既に遅く、岩泉に届けられたトスはアイツの得意な高さで。
ドガッ
素早いスナップから繰り出された強打は、例えリードブロックだとしても12番のシングルでは岩泉を完全にブロックすることは難しくその指先を弾く。
慌てて後衛にいた3番がフライングで飛び込むものの、その指先は関節1つ分間に合うことができずに、ボールは勢いを緩めることなく床をとらえた。
___バンッ
キュッ………
ボールが床を跳ねた数秒後に岩泉が地へと降り立つその数秒間、館内は静寂に包まれていたが、次の瞬間には物凄い歓声が轟くこととなった。
ワアァァアアア__!!
呆然とした表情で自分の掌を見つめていた岩泉。
「一っ!!勝ったぞっ!!ラスト、マジ痺れた!!」
「岩ちゃんっ!!やったよ!!勝ったよ!!」
目を見開いて飛び付く俺たちを受け止めた岩泉の口許が緩み、細められたその目には涙が浮かんでいて
「うおおおおお!!やっべぇな!!マジで勝ったよ!!白鳥沢に俺たちが勝った!!!」
ガッシリと3人で抱き合ってるとすぐにそれぞれの背中に花巻たちコート内の仲間もベンチにいた選手も皆が飛び付いてきて、気がついた頃にはよくわからないくらいもみくちゃになりながら喜びを分かち合っていた俺たちは、皆揃いも揃って割れんばかりの笑顔だった。
今まで何度も勝ちという瞬間を、優勝という瞬間を経験してきた俺だけど、今、この瞬間が今までで一番嬉しくて興奮していると思う。
"帰ってきて、良かった"と心から思える瞬間だった。
__Settlement.