第10章 最大の好敵手
牛島がスパイクモーションに入り、それに対峙するように及川と岩泉がブロックに飛ぶ。
バチィッ
「___くっ!」
及川が物凄い球速の牛島のスパイクをワンタッチであげるが、ボールは天井近くまで高く飛び、大きく弧を描くように戻ってくる。
「カバーッ!」
だが、明らかにボールの軌道はサイドラインを越えていてこのまま床に落ちれば、白鳥沢のブロックアウトとなってしまう。
「___俺が取るっ!」
ギュ、と音をたて床を蹴ると、空中で捉えたボールを腕を捻りコート内へとなるべく山なりになるよう投げ返した。
「悠ナイスカバー!渡っち!」
「ハイっ」
俺の投げたボールはアタックラインを越えた辺りで渡がジャンプトスをあげ、そこに合わせた及川がスパイクモーションに入る。
「1番マークっ!」
白鳥沢の2番がブロックに飛び、声を上げていた。
今及川の目の前には2番とセッターの2枚の壁が立ちふさがっている。
及川の体がが最高到達点にたどり着くと同時に、トップスピードで振り下ろされる右腕がボールを捕らえたその時___
ふわっ
「フェイント!?」
当然のごとく強打がくると思っていた白鳥沢の二人は目を見開き、唖然とした表情を見せた。
「……残念でした。」
人をイラつかせるいつもの笑顔をベッタリと張り付け呟いた言葉に白鳥沢の面々が苛ついているのを感じる。今は前衛に牛島はおらず、白鳥沢の2番とセッターでは及川の心理戦に勝つことは難しく、相性の悪さすら感じられた。
「ナイス徹~!お前の性格の悪さが輝いていたな。」
「相変わらずトリックプレーはピカ一だな。」
「人の悪さもこーゆー時は役に立つよな。」
俺、岩泉、松川の言葉にわなわなと震えだす及川。
「~~~何なのソレ!?誉めてんの!?けなしてんの!?分かんないし、何か嬉しくないっ!」
「まぁまぁ、落ち着こうね徹くん。誉め言葉に決まってんだろ?な、一、イッセー?」
「多分な。」
「一応ね。」
「………。」
岩泉たちの返答に不満たらたらな様子の及川の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、ニカッと笑って見せるとほんのりと赤に染まった及川の頬。
__Psychological warfare.