第10章 最大の好敵手
こつん、とぶつかる二人の拳。
囮なんて久々だけど、それは相手にとっても同じこと。相当な衝撃は確実だろう。
………ま、後で若にガミガミ言われそうだが……
それを思うと少しだけ胃が痛みだすのは気のせいかな
再びエンドラインに立った及川。
「…………。」
ダン、ダンとボールを床にバウンドさせながら集中力を極限まで高めていく。
「徹っ1本ナイッサー!」
俺の声にピクリと反応した及川が小さく頷く。
___大丈夫。たとえお前のサーブが取られても、俺たちが取り返すから。
声に出さない想いを胸に抱きながら、自分も集中力を高めるべくネットの向こうへと視線を映す。
ドガッ
___いいコース!!
放たれたボールがコートの隅ギリギリのポイントに向け風を切る。
「___くっ!」
すぐに反応した白鳥沢の4番が手を伸ばすものの、届くことなく床を跳ねた。
「何をしている!?あれぐらい取れて当然だろう!?使えないやつはコートから出ていけ!」
「すっすみません!!次こそ必ず!」
牛島の怒号が飛び、さらに緊張感が高まる白鳥沢サイド。
一方の青城サイドは及川に声をかけるものの、その集中が解けることはなく、皆一様に闘志をむき出しにしていた。
___あと5点。
ふぅ、と長く息を吐き、ヒュ、という音とともにあげられたサーブトス。
キュ、キュギュッ___ドゴッ
高らかに上がった体から放たれた豪速球が鋭い放物線を描きあっという間にネットを越える。
「__はいっ」
そこに合わせたのは白鳥沢のリベロ。
しなやかにレシーブフォームを取ると、いとも簡単に及川のサーブをいなし、あげる。
「……くそっ」
ネット際に戻ってきた及川が小さく吐き出した悔しい思い。
俺は心の中で及川に頷きを返すと、視線の向こうにいる白鳥沢のセッターの動きを凝縮する。
今動いているの牛島と3番__しかしいつものように牛島からのコールはない。
……だとしたら__
くい、
セッターの体が少しだけ後方に捻る。
「………3番!」
「__!……オッケ。」
隣にいる花巻から帰ってきた了解の言葉。
ギュ、と踏み込みつつコース読みをする。
キュキュッ__
降り下ろそうとしている腕はやや右側へ向けられている。
___Difference.