第10章 最大の好敵手
「げっウシワカッ!」
「チッ相変わらずムカつく面してやがんな」
視線の先にいたウシワカこと白鳥沢の牛島若利は、俺たちを見つけるとその体をゆっくりと壁から離し、こちらへ向かってきた。
近づくにつれ俺の両端に立つ及川と岩泉が殺気立っていくのを感じる。
しかし、当の牛島はその殺気を真正面から浴びているにも関わらず涼しい顔のままで。だがその視線は俺から外れることはなかった。
「……よぉ。若。ついに俺とお前のマッチアップだな。」
ニィと口角を上げ、挑戦的な笑みを向けると、対峙している牛島の顔がピクリと反応する。
「___悠。少し、お前に話がある…来い。」
ぐい、と俺の腕を掴み連れていこうとする牛島。牛島との付き合いの長い俺はこの手のノリには馴れていて、特に抵抗もせずにその後ろをついて行こうとした。_その時
「……はいはい。ったく引っ張ん「待てよ。悪いけど悠はうちのなんで勝手に連れていかれると困るんだけど!」………徹…」
怒りのオーラを全身にまとう及川の声は普段よりトーンが低く、声にすら怒りが満ち充ちていて。その隣に立つ岩泉も口許をひくつかせ鬼気迫る表情を見せている。
「………そうか。悪いが、俺はコイツには用があるが、お前らにはない。……行くぞ。悠」
怒り心頭な二人の様子を特に気にも止めず、さっさと俺を連れ去ろうとする牛島に、及川が俺の腕を引き寄せ足止めする。
必死な形相で俺の腕を掴む及川の姿に俺は困ったような笑みを向け、大丈夫、と伝えた。
「……っでも…!」
苦しそうに顔を歪め食い下がる及川。
「……んな顔してんなよ、バカ。すげぇ残念な顔になってんぞー。………ごめんな、俺も若に話あんだわ。ま、すぐ帰ってくるからさ。待っててくれや。」
ポンポンとその頭を撫でると静かにされるがままになる及川。いつもより小さく見える背中に、及川の中にじわじわと不安が広がっていっているように感じられ、心配になった俺は及川の顔を覗きこむ。
「………帰ってきて。すぐに。」
「ん。了解。」
不安の色を帯びた瞳に頷きを返すと、俺は牛島とともにその場を後にした。
「………悠の……バカ」
小さく告げられた及川の抗議は、届くことなく宙に消えて。
___Hateful old enemy.