第9章 初陣
「…………だろ?」
昨晩、結局は教えなかった影山と日向の速攻のサインに気づいたらしき及川は、いそいそと監督に向けタイムアウトの合図を送ると、間もなく審判よりタイムアウトが告げられた。
「___飛雄ちゃんとチビちゃんの神業速攻と普通の速攻との使い分けの仕方。……"来い"と"くれ"です。」
及川の説明の間、俺の意識は烏野に向けられていて、視線の先の菅原と目があった瞬間、俺たちがサインに気づいたことに、烏野も感付いたと悟っていたのだった。
きっと及川にとってはこっちがサインに気づいたことすら影山を揺さぶるための布石の1つなのだろう。
こういった心理戦も試合の中では重要なポイントではあるが、俺自身は出来なくはないが好きではないのが本音で。
やっぱり、力ずくとか、技術面で力の差を見せる方が好きなんだけどね。
……ま、それで嫌な思いも沢山してるけど。
「"神業速攻"の時はチビちゃんのマークは一人にしよう。あ、悠が前衛の間は、悠についてもらうからね!」
「ん。了解。」
及川が俺の肩に手を乗せながら出した指示に返事を返すと、にこりと笑顔を返される。
「……そんで、"普通の速攻"の時はトスがどこから上がるか見てから跳ぼう。オッケー?」
「「「「「オスっ!」」」」」
揃って返事をした後、俺の隣にいた花巻が少し呆れた表情で反対コートを指差した。
「………つっても、あの10番。次サーブで後衛だけどな。」
「わ、分かってたし!知ってたし!!」
動揺の色を含ませ大声をあげる及川。
………多分サインの謎が解けた嬉しさに、日向が後衛に回ることに及川は気づいていなかったと思うが、必死に知っていたと訴える姿に花巻と俺はクックッと笑う。
「つーかこんな序盤の特に動きもないタイミングでタイムとって、向こうに気づいたことに気づかれんじゃねーの?」
「いいのいいの!むしろ気づいてくれた方がいい。こっちがあの合図に気づいたことが分かればきっと、多少なりとも、飛雄は焦る___」
岩泉の言葉に及川がにやりと不敵な笑みを浮かべ、反対コートにいる影山を見つめていた。
____I notice it and be noticed.