第8章 開幕
俺の視界に止まったのはコートの上で、ウズウズとトスに飢える小さな獣の姿。
そういや、翔陽と影山の例の速攻はまだ出てねぇなぁ……
あんだけ派手な攻撃なら、一発目に決めてきてもいいかくらいなのに。
…………ってことは、何らかの意図があるっつーことかね。
考えを巡らせていると、その答えは案外すぐにやって来て、俺は一見小さいけれど、大きな変化を目の当たりにし、ゾワり、と体が反応した。
「へぇ………!」
立ち上がった俺の隣に飛び出してきた及川が声を上げる。
「今、アイツがやったのって、"普通"の速攻だよな。………スゲェ下手くそだけど。下手なりにコースを選んでたし。」
「本当に厄介だよねぇ~。あのチビちゃんの貪欲さは。……見る度に飛雄と一緒に進化しちゃって、本当に厄介。あ~やだやだ。」
及川はブツブツと文句を言いながら、ドサリと腰を下ろし、その隣の席に俺が座るよう促した。
呼ばれるがままにそちらに向かおうとした俺は、何気なく烏野戦のコートではなく、もうひとつのコートに視線を向け、目に入ってきた文言に目を見開いた。
「………なぁ、徹………伊達工業って何?……"伊達の鉄壁"って書いてあんだけど…」
「ん?伊達工?……あぁ、あそこ、ブロックで有名なんだよねー。"鉄壁"って横断幕に掲げるくらいだからまぁまぁ強いよ。………ブロック。………何~?気になる?」
覗きこんできたムカつくイケメンスマイルに軽く拳をぶつけながら視線は伊達工のコートに向け、まあな、と答えてみせる。
「………どうも昔から"鉄壁"とかそういう言葉を聞くとさ、……ぶち破りたくなんだよ。俺のスパイクで。」
肩にのし掛かる及川の重さを感じながら、渇いてきた喉をごくりと鳴らす。
「………ふふ。そーゆーの、悠らしいね。でも伊達工くらいじゃ、お前の欲求は満たされないかもね?」
及川の言葉に、ピクリと反応した俺は、はぁ、と大きなため息をつくと、首の後ろを掻きながら及川に不敵な笑みを向けた。
「………いいんだよ。壁の強さ云々はどうでも。…ただ俺は目の前にある壁全てをぶち破りてぇの。」
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