第6章 奇襲
烏野側コートのエンドラインの外には闘志溢れる澤村の姿。
俺へと真っ直ぐに見据えられたその瞳はギラギラと光り、俺との勝負を心から楽しんでいる様が伺える。
そんな澤村の姿に、そわそわと落ち着きをなくす俺の体。
ボールを____
早く、俺にボールを寄越せ
そう、全身が唸っているようだった。
ドカッ
澤村の手から放たれたボールがこのコートの主である俺の元へとやってくる。
そいつをレシーブでそっと受け止めてやると、柔らかな放物線を作り、セッターである菅原の元へと返っていく。
それと同時にエンドラインぎりぎりまで下がり、一気に駆け上がる。
__おっと、いけない。
大事なことを伝えなくちゃね。
「孝支…。いつもよりもっと高め、速め、の寄越せよ。」
「___!……はいっ!」
既に深い踏み込みの態勢入っている俺の頭上高くへと上げられたボール。
1秒、1ミリでも速く、
あのボールに触れたい。
それだけを胸に
飛べ_____
頂上へとたどり着くと俺を止めるべく跳んだであろうブロック3枚を見下ろす高さにある俺の上半身。
いつも、
ここに辿り着くと見える景色がある。
ほんの一瞬であるはずの時間は流れを止め、全てがクリアに見える。
どこに打ち込めばいいか、
誰が、どこで、何をしてるか。
その指先や表情さえも全て見えるぐらいに。
この瞬間_____
俺はこのコート全体を支配する
"帝王"
となる。
最大限に後ろへと引かれた左腕を瞬時に前へと送り出しボールを捉え___
_______撃つ!
ゴッ
____ドンッ!
床を跳ねたボールは勢いが消えることなくコートの外へと飛んでいく。
………キュ
なおも静寂が続いたままのコートの上へと降り立つと、反対コートで目を見開いたままの澤村へと人差し指を向ける。
「…………これが、本当の俺の姿だ。」
_____The Emperor.