第3章 目的を…。
視界に赤い紐が見えた。
「……ジャーファル、さん」
「……」
初めて見た悲しみと怒りが込められている表情。
落ちて死ぬはずだった男は彼の赤い紐に巻かれ、引き上げられて助かり、荒々しかった炎は消されていた。
後ろを振り返ると、赤髪の青年が構えたまま飛んできた。
ブレスに血を垂らし、ルフを影に注いで瞬足でギリギリかわす。
(頭が回らなくなってきたッ)
まだ完全にルフが回復していなかったせいで、頭痛と過呼吸が始まりだした。
喉を押さえながら、瞬足を使って遠くに逃げていく。
気がつけば、またあの暗い路地裏にたどり着いていた。
(…苦しい)
早く楽になりたいと、影で刃物を作り、それを喉に向けた。
ジャーファルさんの悲しそうな顔を思い出し、微笑む。
最期にあなたに会いたかった。
あなたの笑顔が見たかった。
(…これで、最期ッ)
切っ先が喉に当たった瞬間、刃物は路地の奥へと弾き飛ばされた。
見覚えのある赤い紐が、私の右手首に巻き付く。
前と同じ、息を切らせて立っている彼がいた。
「…ジャーファルさん…」
「勝手に死ぬなんて許しませんよ、シェリルさん」
「放って…おい、て…」
私を抱きしめ、首元に顔を埋めてか細い声で呟いた。
「私があなたの側にいますから」
その時に、ジャーファルさんの手が震えていることに気づいた。
私は子供のように声をあげて泣いた。
ジャーファルさんに抱きしめられ、頭痛も過呼吸も止まっていた。