第12章 【淡い夢】
シェリルside
* * * *
急にゾッと寒気がし、足を止める。
意を決して振り返るが、背後には誰もいない。
ホッとして前を向き、一歩踏み出す。
目の前には、シエルがいた…。
「―――――っ!!」
「逃げるなよ。ずっと探して…、やっと見つけたんだから」
向き合いながら、壁に押さえつけられる。
ジャーファルはシンドバッドに呼び出され、ついさっき私と別れたばかりだ。
最後に言われた言葉を思い出し、私は俯く。
『すぐ私の部屋に行って待っててください。サラクの皇帝にまた会っては危ないですから……』
彼の言う通りにした。
なのに、ジャーファルと別れて角を曲がった瞬間に、どうして出会ってしまったんだろう。
ジッと私を見据え、シエルは徐々に、握っている手首に力を込めた。
骨が軋む音が聞こえる。
「国に帰るぞ、シェリル」
「帰らない、絶対…。私の帰る場所は此処だものッ」
傍にいなくても、ジャーファルは一緒にいる。
彼の手をパッと振りほどき、金属器のブレスに手を添えた。
シエルは驚いているようで、目を見開いたまま動かない。
彼から退くように、後ろへ一歩ずつ下がって距離を取る。
「…お前が、俺に反抗するなんて…」
「私はシエルの操り人形なんかじゃない。…シンドリアに、一体何しに来たの?」
「…戦争だ。サラクはシンドリアを滅ぼす」
彼の低い声が耳の奥に響く。
狂ったような歪な笑みを浮かべている、シエル。
けれど、私はなぜか、彼がグッと何かを堪えているようにも見えた。