第12章 【淡い夢】
幸せで恐怖を覆い隠して。
目を逸らして、忘れていた。
消し去ってなんていない、ただ、上塗りしただけ。
ああ…助けて、ジャーファル…。
* * * *
「…シェリル…」
「――――――――ッ!!」
今すぐ逃げ出したいのに、恐怖で体が動かない。
シエルは私だけを見つめたまま、歩み寄ってくる。
彼が微笑んで、スッと私に手を伸ばした。
ギュッと目を瞑り、溜まっていた涙が頬を伝う。
(………?)
何秒たっても異変はない…何もない。
ゆっくり目を開けると、目の前には、
袖に腕を通したジャーファルがいた。
シエルと正面から向き合い、私に背を向けている。
後ろ姿からは、明らかに殺気が感じられていた。
「あなた様のような高貴な方の前に、身分の低い…『私の部下』が姿を現してしまい、申し訳ありません」
が、仮にもシエルは『サラクの皇帝』だ。
立場をはっきり理解している彼は、『それ(殺意)』を思わせないような穏やかな顔をしている。
そして、ジャーファルは凛とした表情でしゃがみ、許しを請うような声で言う。
「こちらで然るべき処罰をいたします。…どうか私の補佐文官をお許し下さい」
「…いいでしょう…」
ありがとうございます。…さぁ行きますよ、シェリル。
ジャーファルは少し低い声で呼び、キッと私を睨みつけて廊下を歩いていく。
今までにない形相で正直ビクついてしまったが、腕を掴んでいる手は優しい。
チラッと後ろを振り返ると、シエルは腑に落ちない顔をして私たちを見つめていた。