第10章 【奪われた幸せ】
* * * *
目を開けると、そこは暗くて。
でも、温かい。
足音が響いて、振り返ると人影があった。
「主…?」
「違うよシェリル。チェシャです」
意識の底で、私は何度も彼女に会っていた。
ただ、意識を彼女に奪われたのは、今回初めてだった。
あの時、腕を引っ張られて後ろに追いやられた。
「ごめんね、あなたの主を止めるには…、あれしかないと思ったの」
「ううん、いいよ。ありがとう。…主を元に戻すにはどうしたらいい?」
「あなたにワタシの『歌』をあげます、それで助かりますよ。…さぁ、ジャーファルの所に行って。もうすぐワタシは消えますから」
彼女のゆび指す方向に向かって走り出した。
彼女の前を通り過ぎた瞬間、「お幸せに」と言う優しげな声が聞こえて、振り返るとキラキラと輝く砂になり、舞って消えた。
(チェシャ、アリスの元に行ったのね…)
私は意識の底から這い出た。