第10章 【奪われた幸せ】
* * * *
地面に足を崩して座り込み、噴水を眺めていた。
彼女を通して知った『八人将』のシャルルカンとマスルールが歩み寄ってくる。
そして、ワタシを挟むように隣に座る。
その情景が、頭の中に残っていた記憶と重なった。
『チェーシャ!! 一緒に行こうぜ、アリスが呼んでるっ!!』
『勝負するみたいですよ』
(いない。皆がいない。アリスがいない…)
そう思うと、涙が溢れてきて止まらなかった。
「アリスも誰もいないの…、何処にもいないの。私だけが此処にいるの。アリスの所に行きたい…帰りたいっ」
「チェシャ猫…」
「……泣いてたって何も始まらない」
マスルールは真っ直ぐな目でワタシを見た。
確か彼はファナリスという戦闘民族だ。
仲間は皆奴隷狩りに遭ったのか、故郷の暗黒大陸には誰一人残っていなかったと、彼女を通して聞いている。
(彼も私と同じ…一人)
そう思うと心の底が温かくなっていく。
そして、ワタシは2人に「ジャーファルを助けて欲しい」と言われた。
なかなか決心がつかない中、風に乗って聞こえた、愛しい彼の声。
【帰っておいで、チェシャ。お前はもうこっちに来れるよ】
「―――――――…っ」
体から光が出て行くように溢れている。
すぐに、「アリスの元に行けるのか」と分かった。
彼女の体から少しづつワタシが消えていくのが、彼等には見えていないようだ。
「分かり…ました、手伝い、ま…しょう…」
「良かった…助かったっ!!」
「マスルール、ありがとう。ワタシ、アリスの元に行けます」
「―――――…」
ワタシはジャーファルのいる部屋へと向かって歩き出した。