第10章 【奪われた幸せ】
「シンッ」
「――――――っ!?」
ジャーファルが別室で眠っていた俺の部屋に、扉を蹴破って入ってくる。
朝、ちゃんと血を落としたはずの顔に、再び血痕が付いていた。
傷だらけになった彼はもう倒れてしまう寸前で、ジャーファルを追ってきたように、部屋に何人か武器を持った奴等が入ってくる。
「シン…、逃げてくださいっ、私が食い止めますから」
「―――――止めろジャーファルッ!!」
俺が強く掴んでいた腕を振り切り、彼はバララーク・セイで奴等を圧倒するように刺し殺していく。
剣を片手に立ち上がり、戦おうとした。
が、視界が激しくぐらつき、バランスを崩して倒れる。
立て膝から動けそうにない。
(夕食に何か盛られたか…ッ)
「シンッ!!」
ハッとして顔を上げると、一人の男の剣が振り上げられている。
切られる瞬間に、剣を手で挟んで投げ飛ばせば、何ら問題のないことだった。
しかし、ジャーファルが飛び出してきて、彼は俺の盾になるように背を向けて、右胸から左腹を切りつけられた。
「―――――――――あ゛っ」
「ジャーファルッ!!」
傷口から吹き上がる血飛沫の情景を、今も生々しく覚えている。
彼はその場に力なく倒れ込み、俺は彼の深い傷を見て頭が冴えた。
動けそうになかったはずの体は、すぐに立てるようになる。
怒りと殺意を持って、残りの奴等は全員俺が殺した。
* * * *
今も、彼の深い傷跡は残っている。
致命傷を負ったのにも関わらず、彼はその傷を誇りだと、勲章だと言っているらしい。
忠誠心が強く、俺が危険な目に遭えば自分の身を放り投げ、命を捨てる覚悟を常に持っている。
「ジャーファル。その悪癖とも言える従順さを、シェリルが受け継いでしまったらと思うと、俺は心配でならないよ」
そう言って、椅子に腰掛けて彼の容態を看ていた。