第10章 【奪われた幸せ】
* * * *
いくつかのダンジョンを攻略した俺は、当時最も栄えていた国の宿に泊まった。
だがその国は、不可解な魔術を得意とし、犯罪が絶えない国でもあった。
細心の注意を払っていたつもりだったが、それは意味を成さなかった…。
(……風…)
有刺鉄線がされた窓が、閉めていたはずなのに、開いている。
気配を察して右を向くと、すぐ目の前に切っ先がある。
顔を布で隠しているが、瞳にはまだ幼さが残っていた。
「アンタがシンドバッドか…悪いけど死んでもらう」
「お前…何なんだ」
「殺さなければ、俺が殺されるんでね」
刃物に赤い紐がついており、それを投げて操り体を拘束される。
ギリギリと紐を締め上げる彼の手は、迷いがあるのか震えているように見えた。
金属器を持つ俺にただの拘束は効かず、すぐに形勢は逆転した。
「う゛ぅぅ゛」と獣のような声を発し、殺気染みた目を未だ向けてくる。
「お前は、自身の意志を持って生きているのか?」
「ふぅー…ふぅー…っ!!」
「お前…俺と一緒に来るか!!」
「……な…っ」
仰向けになったまま動かない彼の体を起こし、布を剥ぎ取ると、無表情で泣いていた。
それが、ジャーファルだった。