第10章 【奪われた幸せ】
悲しみに溺れ、アリスを殺したのは誰かも分からずに従者たちは死んでいきました。
彼等を生み出した主のアリスが死ねば、従者も死ぬのは明らか…。
ですが、アリスに特に愛されていたチェシャ猫はただ一人生き残った。
そして彼への想いを歌い続けているうちに、体はブレスに取り込まれたと言われています。
それが、語り継がれている『アリスダンジョン』という話です。
* * * *
「それが、今シェリルの体にいる『チェシャ猫』か…」
「…彼女から嫌な気は感じられませんでした。一度、話し合ってみてはいかがでしょうか」
「……わかった。彼女を探して連れてきてくれ」
「はっ」
ジャーファルを除く『八人将』は胸元で手を組み、すぐに部屋を出ていった。
『あなたを愛する、永遠に…』
彼女の言葉を思い出しながら、ジャーファルを見た。
その少年の姿は、俺と彼が初めて出会った姿だった。
「あの頃…お前は俺を殺そうとしてたなぁ!!…信頼を築くのがアイツ等の中でお前が一番時間がかかって………」
「…………」
何も言わないジャーファルの頬を撫で、銀髪に触れる。
こんなに幼くなっても、彼の体の傷は消えない。
右胸から左腹までの大きな深い切り傷。
俺をかばって、できた傷。