第10章 【奪われた幸せ】
「シェリルっ!!」
「申し訳ありません、ダメでした。今は一時的に意識と精神を『歌』で縛り付けていますが、きっといつかは黒ルフに解かれてしまうでしょう」
シンドバッドは彼を懐かしそうな目をしながらも、表情は曇ったままだった。
ジャーファルのバララーク・セイが纏っていた雷で焼け爛れている左腕を見せないよう、影に『命令』して覆い隠かくさせた。
ヤムライハは『ワタシ』の手首を後ろから掴み、疑うような眼差しで睨みつけ、言う。
「あなた…、誰なの? 、シェリルじゃないわねっ!!」
「よく…気がつきましたね。『ワタシ』は、あなた方の知るシェリルではありません。ですが、れっきとした彼女ですよ、他人ではない」
「「―――――――ッ!!」」
「害を与えるつもりはありませんから、ご安心を。相手が『八人将全員』では、ワタシも少々骨が折れますからね」
だが、シンドバッドの警戒心は解けることはないらしく、私はジャーファルをベッドに寝かせ、胸もとで手を組んでお辞儀をする。
そして、微笑みをたたえたまま部屋を出た。
(さて、『ワタシ』はワタシの役割を…)
【こんなものは痛くなどない、
アリスの苦痛に比べれば。
2つの腕がもげてもあなたに手を差し伸べる…、
こんなワタシを愛してくれるあなたを、ワタシは愛する】
『歌』を歌い上げ、左腕の火傷を跡形もなく消した。