第10章 【奪われた幸せ】
「何だよ…どうなってんだよッ!!」
「黒ルフの影響ね…、私達が誰だか分かってないっ!!」
「…私にお任せを、シンドバッド王…」
(…主の不祥事は、従者の私が責務を負いましょう)
「ああ、頼む」という彼の声を聞き、振り返って手を組み、お辞儀をする。
被害を最小限に押さえるため、暴れる彼を影に引きずり込んだ。
「う゛あ゛ぁあ゛ッ」と獣のような呻き声。
影をバララーク・セイのように扱い、彼の体を拘束する。
「主? 私ですよ、シェリルです」
「…殺してやる。お前もシンドバッド王も、この国の国民全員…ッ」
「―――――――っ、主…」
悲痛な思いを抱きながら、殺意を瞳に秘めている彼に歩み寄る。
私は自分の中から聞こえる内なる声に耳をすませ、影で拘束
されている彼の耳元で再び『歌』を囁いた。
「あなたは『彼女』の『愛する主』でない主。
偽物は深く、暗い水底へお帰り。
彼女たちは待つ、『本当のあなた』のお戻りを…」
「な…にっ……」
彼は最後に私の腕にバララーク・セイを突き刺して、眠りに落ちていく。
ズズズ…と体が小さくなっていき、私と同じくらいかそれ以下の身長になった。
未だ体に黒いルフは巣食っている。
『ワタシ』は彼の脇に首を通して、腰に手を当てて影から這い出た。