第10章 【奪われた幸せ】
「ヤムライハさん、主の容態は……」
「アル・サーメンの黒ルフ…。マギであるジュダルが作り上げたものだから、少々厄介ね」
既に黒ルフの侵食は全身に広がっており、腕や首元の血管が浮き上がり、異様に脈打っているのがはっきりと分かる。
ピスティさんが椅子に座っている私の両肩に手を置き、「大丈夫よ」と慰めてくれた。
それでも…、泣き止んでも、私の目に光は戻らない。
彼が、目覚めなければ…。
(ああ、『アリス』、
『ワタシ』たちの愛しい『アリス』。
『ワタシ』の目も耳も、あなたに差し上げましょう…)
ふと、以前に『彼女』から習った『歌』を思い出し、私は頭の中でそれを何回か繰り返した。
私の様子に気づいたシャルルカンさんが「おい!!」と肩を揺すったけれど、そのまま続け、口を開いて最後の歌を呟く。
「さぁさ、夢国へ…。
あなたがいるべき場所は、そこじゃない。
どうか、どうかお目覚めに…。
『ワタシ』は『チェシャ猫』…、あなたを愛する、永遠に…」
「…ぁ゛……」
「え……、ジャーファル」
苦しそうな声を上げ、主はゆっくりと目を開けた。
シン王が安心そうな顔をして、彼に手を伸ばす。
だが、その歪んだ狂気を帯びた真っ赤な目を見た瞬間、私は彼の手を掴み、影で皆とジャーファルの間に壁を作った。
その瞬間、影はバララーク・セイで切り裂かれる。
全員が、驚いた表情で彼から一気に離れた。