第10章 【奪われた幸せ】
が、なんともない。
恐る恐るゆっくり目を開けると、背を向けて両腕を広げ、黒いルフを私から守るように立っている主の姿があった。
声にならず、ただただ、絶望したような目で私は彼を見る。
腕には私のブレスレットがはめられており、瞬足を使ってここまで移動したのは明らかだった。
「―――――っ!!」
「…無事、ですか? まぁ、これで…無事じゃ、なかっ…たら…許し、ま…せん、けど…」
彼の首元、手足、黒いルフを受けた所が徐々に黒ずんでいく。
涙目になりながらも、鋭い目つきでさっきの少年を探したけれど何処にもいない。
止まらない涙の雨。
彼は振り返り、座り込んでいる私の頭を撫でた。
漆黒のルフにゆっくりと侵食されていく手で。
「すみません、主っ、すみません…すみません…っ」
「いいん…ですよ…。ただ…眠い、ですね…」
顔の左半分をすでにルフに侵食されている彼は、ひどく苦しそうな表情をしていた。
左の瞳は真っ赤に染まりきっていた。
そのまま目を閉じ、私の腕の中に落ちる。
「…いや……っ!! いやぁああぁッ!!」
悲鳴にも似た声を上げ、私はただ泣き叫ぶしかできなかった。