第5章 師との決別…、新たな契約を。
門前には兵がいたけれど、私一人の為に門を開けさせるなんてできず、さっき修得した影の中での移動を使った。
部屋の前にあった影から這い出て、何も無かったように部屋に入ろうとした時。
「――――――っ!?」
誰かに部屋の中へ突き飛ばされて、鍵を締められた。
突然うつ伏せに倒され、怒った私はその人を睨みつける。
真っ暗で何も見えないけれど、人の気配は分かった。
覚えのある甘い香りに、ハッとして名前を呼ぶ。
「…ジャーファルさん」
「今まで何処に行ってたんです? 宮殿中を探しても見つからない。…私を困らせないで下さい」
「…どこに行っても私の勝手じゃないですか」
師を想って泣いていた、人の気も知らないで…と、つい反抗的な態度を取ってしまった。
暗闇に目が慣れてきて、彼の顔を見ると、ひどく怒っているような表情をしている。
本能で『やばい』と感じ、歩み寄ってくる彼から逃げようと後ずさりする。
「シェリルさん、人に心配させたら何て言うんですか」
「…し、知りません!! 心配とか…お節介ですっ」
「―――――――ッ」
ジャーファルさんは、私の左右の耳をかすって壁に両手を付く。
気がつけば、私は壁の隅に追いやられており、彼の顔はとても近い所にあった。
彼の手から抜け出そうとしたけれど、グッと体を寄せられて首元に顔を埋められる。
甘い香りと共に、荒い息が首筋にかかった。
「ちょっ、ジャーファルさん!!」
「今日はとても疲れました。シンは仕事をしないで逃げますし、あなたは宮殿からいなくなるし…」
「自分の部屋に戻って寝たらどうですかっ」
「連れてって下さい…ねむ…い……」
私に寄りかかり、そのままズルズルと下に落ちていくジャーファルさんの体はとても熱かった。
「…ぅ…」と、うめき声を上げながらする荒い息。
私は「まさか」と思い、額に手を当てると熱があった。
「熱あるじゃないですかジャーファルさんっ」
「…ん……?」
「『ん?』じゃないです!! 行きますよ!!」
私じゃ、ジャーファルさんを持ち上げても彼に潰されてしまうので、影を呼び出して部屋に運んだ。
書類まみれの部屋は、彼の甘い香りが漂っていて安心する。
ベッドに寝かせて毛布を被せると、子供のような寝顔を撫でた。