第7章 さんかく
「ははは、良かった。昨日の沙々羅さん凄い怒ってたから、もうしばらく口きいてもらえないんじゃないかと思いました」
「あれでしばらく口きかなくなるなら、及川とはもう一生喋らないことになるわね」
及川に対しては、顔を合わせる度にと言っても過言じゃないほど怒っている自信がある。いや、こんなしょうもないことを自信にしたくはないけれど。
元はと言えば昨日のことだって、及川が日高くんに喧嘩を売ったのが原因だ。かっこつけのくせに大人気ないというか、割と小学生男子的な部分があるというか。案外心が狭いちっさいヤツなのだ。
……そのくせ、私に対してはとことん甘くて。何をしても許された。
私の一方的な理不尽な怒りだって、いつも折れるのは及川の方。意地っ張りな私の代わりに、困ったような笑顔とともに「ごめんね」と謝ってくれていた。
だから、この前本気で怒りをぶつけられた時には本当に驚いて……あぁ、止めよう。今は関係のないことだ。
離れて行く及川の背中を頭から振り払うために目を伏せる。
当然、その時日高くんがどんな顔をしていたかなんて気付けるはずがなかった。
「……。沙々羅さん、その及川って人と付き合ってたって本当なんですか?」
「……何年も前のことだけどね。もう終わったことよ」
わざわざ日高くんに詳しく話すことでもないと判断し、短く切り上げる。けれど、日高くんの方はそのつもりはないようだった。
「でも、及川さんの方は終わったつもりはないみたいでしたけど」
「……及川がそうでも私にその気はないから」
「なら、何で今でも及川さんと逢ってるんですか?昨日だって、沙々羅さんのこと迎えに来たんですよね」
「アイツが勝手にやってるの」
「でも、迎えに来た及川さんと一緒に帰ってるんですよね」
「……日高くん?」