第7章 さんかく
「すみませんでした!!」
ガバッと勢い良く下げられる頭。わぁ、綺麗な右巻きの旋毛……ってそうじゃない!!
「俺、 沙々羅さんの気持ち全然考えられてませんでした。だから俺」
「わ、わかった、わかったわ!日高くんの気持ちはよーくわかったわ!だからね、もういい加減に顔を上げて……」
「いや、俺沙々羅さんが許してくれるまで合わせる顔がありません!」
「あぁ、もう良いから!許したからとりあえずこっち来て!!」
梃子でも動きそうにない日高くんの腕を掴み、無数の好奇の視線から逃れるために人気のない脇道へ引きずり込む。
まさか昨日の今日で校門前で待ち伏せされるとは。昨日の一件以降、及川や日高くんから送られてくる怒涛の通知を無視して電源を落としたのがよくなかったのかもしれない。
けれど、あのストーカーもかくや、というメッセージ攻撃は無視する以外に方法はなかったと思う。自分の精神衛生上という意味でも。
なんにせよあとの祭りだ。こうして懲りずにやってきてしまった彼をどうするべきか。
鈍く痛みを訴えるこめかみを押さえ、深くため息をつく。
「あの、 沙々羅さん。改めて、昨日は本当にすみませんでした。つい頭に血が昇って。売り言葉に買い言葉であんな風に……」
日高くんはしゅんと沈んだ顔で肩を落とす。
チラチラと私の顔色を気にするその意地らしい姿が、粗相をして飼い主に怒られる犬のそれに重なる。
……だめだ。どうにも彼には弱い。自分の厳めしい顔が崩れるのを感じて、私は早々に怒り続けることを諦めた。
「……もう、さっき許すって言ったでしょ。いいのよ、日高くんが反省してるのはよくわかったから」
「でも」
「私がいいって言ってるんだからいいの。はい、謝るのはおわり!」
強引に締めくくれば日高くんはキョトンと目を瞬かせ、それから嬉しそうに破顔した。
そんなつもりがなくてもドキッとしてしまうほど眩しいから、本当にずるい。