第7章 さんかく
痛いほど真っ直ぐに私を見つめる。日高くんは真剣だ。この人は本当に私が好きでいてくれてるのだ。
熱烈な好意を感じて、頬が熱を帯びる。
見てみぬふりをして真面目に取り合おうとしなかった自分が情けない。
誠意には誠意を返すべきだ。
日高くんが私を好きだと言ってくれた。そのことを受けて止めて、その上で返事をしよう。
未だ驚きと混乱が残る気持ちを落ち着けようと深呼吸をひとつ。
「……ありがとう。私なんかを好きって言ってくれて、凄く嬉しい。だけどね……」
「あ、ストップ」
返事をしようとした矢先、日高くんから何故か制止がかかる。
「……え?」
「今は返事は良いんで。寧ろしないで下さい」
「は……」
「だって沙々羅さん断る気でしょ。だったら返事とかいらないです」
――沙々羅さんに好きって言ってもらえるまで待ちますから。
自信ありげにそう言い放った日高くんの姿が、あの日、あの時を思い出させる。
薄闇に包まれた校門の前。
涼しい夜風に吹かれて揺れる茶色の柔らかそうな髪。
街灯の光を反射する熱のこもった瞳。
『――言うよ。絶対好きって言わせてみせる』
及川に宣戦布告を受けた、あの夜を。