第7章 さんかく
私の反応を待つ及川と日高くん。
私は自分の腹に回された及川の腕を外すと、背を向けてその場から歩き出す。
「どうしたの?」
「沙々羅さん……?」
訝しげな二人から少し離れた所でピタリと足を止める。
「……そうね。折角だから二人に送ってもらおうかしら」
「え!?二人!?」
「そんな、沙々羅さん!?」
予想通り、目を見開いて悲鳴のような声を上げる。
その様子を尻目に、私はゆっくりと両手を伸ばす。
「――ね?日向、影山」
ぽんと、それぞれの肩に手を乗せる。
「「え」」
異口同音で間抜けな声を上げた二人は、私の手の先に目を向ける。
そう。
部活帰りに校門前で繰り広げられていた修羅場に驚き、固まって動けなくなっていた変人コンビに。
「送ってくれるわよね?」
状況の変化についていけない日向と影山の肩を再び叩く。
日向はビクーッと大袈裟に身体を跳ねさせながら「ひゃ、ひゃい!」と返事をし、影山は青い顔でがくがくと首を縦に振った。
「じゃあ、そういうことだから。アンタたちはそのまま喧嘩するなり、二人で仲良く帰るなり好きにしたら?ただし絶対着いてこないで。私は帰る。さよなら」
淡々と一方的に告げると、日向と影山の背中を叩いて歩きを促す。
「……ちょ、沙々羅!」
「待って下さい!沙々羅さん!?」
私たち三人が校門から出たところで、呆けていたアホ二人が我に帰った様子で追いかけてこようとする。
「つ い て こ な い で」
出来る限りのとびきりの笑顔で、一文字一文字はっきりと告げてやれば、ぴしりとその場で石化した。
「ひっ……」と隣で上がった悲鳴は聞かなかったフリをしてやることにして、再度黙って日向と影山の背中を叩いた。