第7章 さんかく
「じゃ、行きましょうか。家まで歩きですよね。送ります」
「え、そんなの……」
「しなくて良い、なんて言葉は受け付けません。答えは『はい』か『イエス』しか聞きませんから」
理不尽過ぎる選択肢を挙げ、日高くんは私の手を強引に引いた。
「ちょ、ちょっと!?日高くん!?」
「聞こえませーん」
ふざけた調子でぐいぐいと私を引っ張る。
腕を引かれたまま校門の外に連れ出され、ふと目についたのは、向かって右側。植え込みのすぐ脇の、街灯の真下にあたる場所。
そこは、毎週月曜日に私の帰りを待つ及川が立っている定位置。
けれど……そこに及川の姿は、ない。
「……湯野さん?」
不自然に足を止めた私に、日高くんは戸惑ったように名前を呼んだ。
逢うつもりなんてなかった。
逢えないと思って、避けようとすらした。
そもそも逢ったところで何をどうしろと。気まずく別れた昨日の今日で。
仲直りするしない以前に、及川にかける言葉すら、まだ見つかっていないのに。
顔を合わせれば、私は耐えきれずにその場から逃げ出すだろう。
――そのくせ、及川がいつものように迎えに来ていないとなると、こんなにも打ちのめされた気持ちになっている。
「……湯野さん、どうしたんで」
「日高くん、ここで誰か見なかった?」
遮った声は堅い。震えないようにするだけで精一杯だった。
「青葉城西の制服着てて、百八十センチ以上あって、髪は茶色くて跳ねてて、やたら見た目が派手で、」
「……いえ、見てないですね」
重石を乗せたように、胸がずっしりと息苦しくなる。
「……湯野さん」
俯く私に、日高くんが心なしか手を握る力を強くした。
次の瞬間、何故か日高くんの手は離れ、私の身体は力強く後方に引っ張られる。
乱暴とも言える力だった。
勢い余って転びそうになれば、背中に何かが当たって踏みとどまった。その感触は、硬くて暖かい。
「おい、かわ……?」