第7章 さんかく
重い足を引きずってのろのろと体育館をあとにした私は、校門前で足を止めた。
校門前の街灯に照らされて地面に長く伸びる影。
……そうだ。今日は月曜日。
昨日のことで頭がいっぱいで、すっかり失念していた。
昨日あんなことがあったのに、及川は律儀にも迎えに来たらしい。
私の方はまだ及川と顔を合わせる心の準備も、仲直りするための言葉すら考えられていないのに。
それに、菅原から問われたことの答えだって、まだ見付けられていないのだ。
こんな状態で、及川に逢いたくない。きっとまた、昨日のように彼を傷付ける心ない言葉を吐き出してしまう。
……裏から帰ろう。
気付かれないように踵を返す。
「……あ、湯野さーーーーん!!」
……つもりだったのだけど、バレてしまった。
それより何より聞き覚えのある、しかし予想外な声に驚いて振り返る。
「ひ、日高くん……!?」
「お疲れさまでっす!いやー、バレー部って遅いんですね。こんなに遅いと危なくないですか」
いつも及川がいるはずのそこから顔を覗かせたのは、何故か日高くん。
言葉を失う私に向かって、何でもないような笑顔でひらひらと手を振ってきた。
「なんでここに」
「湯野さんの顔が見たくなって。つい、来ちゃいました」
「ついって……」
彼の通う常波高校は『つい』で来るような距離ではない。
しかもこんなに遅くまで待っていたなんて。
何のつもりか問いただそうと口を開きかける。しかし、私が言葉を発する前に、日高くんは小首を傾げる。
「迷惑、でしたか?」
「……」
そんなことを言われてしまえば、怒る気にはなれない。
言葉の代わりに呆れたため息を溢せば、日高くんはにへら、と悪びれない笑みを浮かべた。
わざとか。こいつわかってやってたのか!
あざといやり口を咎めるように睨めば邪気のない笑顔とぶち当たり、再び怒りを削がれる。
……あぁ、駄目だ。彼のこの顔にはどうにも弱い。