第7章 さんかく
「前から気になってたんだけどさ……湯野は及川と、どうなりたいの?」
「……え?」
言葉の意味がわからず困惑する。けれど、菅原は構わず続けた。
「湯野は何で及川と仲直りしたいの?寄りを戻す気はないんでしょ?」
「……そうだけど。別に付き合わないからって、仲が悪くなりたいわけじゃ……」
「でも、及川は湯野と寄り戻したいんだよ。湯野のことが好きなんだ。……その気もないのに、中途半端に仲良くされる方が、期待する分あとで辛くなると思うけど」
「……っ!」
心臓が大きく嫌な音を立てて、息を詰めた。
菅原の声はいつも通りの柔らかいものだったけれど、その内容は割りと容赦がない。
「俺が及川の立場だったら、その気がないならいっそのこと突き放して欲しいね」
返す言葉もなく、そのまま黙りこむ。
毎週月曜日に来る迎えを、ちゃっかり結ばされた休日の約束を、文句を言いながらも拒絶したことはなかった。
嬉しいと、思っていたから。
関係は違っていても、以前のように当たり前のように隣に居て、笑顔を向けてくれることが。
だから、これまで避けていた及川を、いざ再会してからは避けるどころか、寧ろ受け入れてすらいた。
……でも、それは間違っていたのか。
及川の望む関係に戻る気がないのなら、別れた時のように徹底的に突き放すべきだったのか。
中途半端に受け入れて期待させることで、私は及川を――傷付けていた?
「……ちょっと意地悪だったかな。気分悪くさせたらごめん。でも俺は、及川とちゃんと仲直りしたいなら、日高くんとの件も含めてその辺ははっきりさせた方が良いと思うよ」
私を諭すように菅原が静かに言ったあと、丁度澤村から休憩終了の声がかかる。
菅原は「じゃ、また」と告げると、コートの中へ行ってしまった。
「……沙々羅?もう始まるけど……」
「……うん、ごめん今行く!」
潔子の言葉に頷いて、立ち上がる。
菅原の話しは一先ず脇に置いて、今は部活に集中しないと。
……そう思うのに、
『湯野は及川と、どうなりたいの?』
菅原に言われた言葉は、頭から離れなかった。