第7章 さんかく
「……湯野?おーい、湯野ー?」
不思議そうな菅原に目の前で手を振られて、ハッと我に返る。
いけない。部活中だというのに。
「……あ、うん。ごめん、何?」
取り繕うように微笑み、ボトルを抱える腕の力を強めた。
「えーと……そのボトル、貰っても良いか?」
「あ……ご、ごめん!」
慌てふためく私に、菅原は苦笑しながらボトルを受け取った。
他の部員たちにも配ろうとして、菅原に渡した分以外なくなっていることに気付く。
烏養コーチと話をしていた潔子が、私に一瞬視線を合わせると、大丈夫というように頷いてみせた。
……ああ、やってしまった。
「珍しいな。湯野が部活中にぼーっとしてるなんて」
「……ごめん……」
項垂れていると、菅原は壁際に腰を下ろしてその隣を手で叩いた。
ボトルを勢いよく煽る菅原の隣に膝を抱えて座る。
「……で、及川と何かあったの?」
「げっほ……!?」
ボトルをから口を離して一息つくなり、いきなり鋭く切り込まれて思わずむせた。
「な、なな何で……!?」
「あはは、やっぱ図星か」
菅原は悪戯っぽく歯を見せて笑っていた。
……やられた。またしても鎌をかけられたらしい。
「まー、湯野の様子がおかしい時は大抵及川絡みだべ?」
「…………」
否定はできない。
「土曜の部活では普通だったし……日曜か」と、まるで見ていたかのようにすらすらと状況を言い当てられて押し黙る。
「話すだけでも、少しは楽になるんじゃない?」
菅原の聖母もかくや、という慈愛の微笑みを意地を張れるはずもなく、私は昨日の出来事を話した。
日高くんと遊んだこと。
その帰りに及川と逢ったこと。
及川に怒鳴られて、気まずい雰囲気のまま別れたこと。
話し終えると、菅原は難しい顔で首を捻った。