第7章 さんかく
「…………っ!!!」
ぞわりと背筋に走った嫌な感覚。
衝動のままに振り払おうとして、掴まれた腕は思いの外強く握られ、びくともしない。
「いやっ……!」
頭の中は突然のことに混乱してぐちゃぐちゃ。
悲鳴を上げる直前で視界に飛び込んできたのは、私の腕を掴む張本人の姿。
………………え?
見慣れた顔に、半場呆然と名前を呟く。
「おい、かわ……?」
「……ねえ、あれ誰」
状況を把握しきれない私に、及川は言った。
一方的な問いかけは、及川らしくない低く感情を押さえ込んだ声。
「さっき駅前で男と別れてたよね。誰」
私の腕を掴む及川の手の力は、強い。その強さに骨が軋んで、痛みに顔をしかめた。
思わず振り払おうとして、鋭い視線に射抜かれて固まる。
試合で見るような、獲物を見定める爛々とした目ともまた異なる、冷たくて、それでいて重たい激情を秘めたような目。
及川が急に知らない誰かになったような気がして、恐怖を覚えた。
「……誰って、アンタには関係ないでしょ。大体なんで及川がここにいるわけ」
恐怖を繕おうと口から飛び出したのは、いつも以上につっけんどんで冷たい響きを持っていた。
……しまった。
そう思った時には既に遅く、及川の眉間の皺が深くなる。
かといって、撤回するにも何を言えば良いのか。
結局、私はそのまま唇を横に引き結ぶしかなかった。