第7章 さんかく
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
――また、遊んで下さいね。
笑顔で告げられたのは、次の約束。
「……そうね、今度は映画でも観に行きましょう」
頷き返せば、日高くんは喜色満面で離れていく私に向かって大きく手を振った。
「帰りは人の多いところ通って下さいね!何かあったら大声で周りの人に助けを求めてください!本当に、くれぐれも気を付けて!」
道行く人からちらほら向けられる視線苦笑いしながら手を振り返し、踵を返す。
このあとバイトがあると言っていたけれど、日高くんは間に合うのだろうか。
自宅まで送るという申し出は断ったものの、最寄り駅までわざわざついてきて貰った私が心配するのもおかしいけれど。
バイトに遅れて怒られて、あるはずのない耳と尻尾をしゅんと下げる日高くんの姿が容易に浮かんできて、込み上げてくる笑いを堪える。
今日一日で、私の中で日高くんは親しい友人となった。
当初はよく知らない異性とデート、と考えて緊張していたけれど、別れる時にもっと話していたい、と考えたくらいに楽しかった。
日高くんほど意気投合できる人とは、中々出逢えるものではない。
きっかけはどうあれ、気の合う友人との出逢えた事に関しては非常に幸運だったと思う。
「……映画、何観よう」
最近の映画や近々公開される映画で、興味引かれたものを思い浮かべながら歩く。
思考に耽りながらも、歩いている道は日高くんの注意通り人の多い道を選ぶ。
私だって、あんな目に遭うのは二度とごめんだ。あの日以来は近辺に気を付けて行動するようにしている。
例えば、目の前の信号の向こう側にある道。そこは左へ曲がれば自宅への近道だが、人通りが少ないのだ。
多少遠回りになるけれど、背に腹は代えられない。
近道を尻目に、そのまま通りすぎようとした、その時。
――突然、後ろから伸びてきた手に腕を捕まれた。